倉崎稜希: 痕跡の庭
2022.March.5-April.10
中世ヨーロッパの「メメント・モリ」(「いずれ死ぬことを忘れるな」という意味のラテン語のことわざ)の精神を継承した倉崎稜希(1995年生)の個展、「痕跡の庭」(The Garden of Traces)がHiro Hiro Art Spaceで開催されます。個展では、油彩と蝋の額縁によって時の流れが残したものを描きだすことで、人類は「世界」という巨大な庭に存在し、必然的に他者と共在し、必然的に生の痕跡を残し、そして必然的に死を迎えるという、生命の普遍性を明らかにします。
倉崎は、人間は死ぬ運命にある(mortality)というシンプルな事実から作品を展開します。どんなに大切にしても、愛を込めて育てても、私たちは皆、庭に咲く花のように、咲いては散るという時の流れに従い、生まれたものは必然的に滅びていきます。これは、自然が万物を総括する鉄則であり、世界が動いていくうえでの基本方程式であり、倉崎稜希の作品を貫くキーワードでもあります。
九州デザイナー学院 を卒業した倉崎稜希は、最初は油彩で商業デザインをするイラストレーターでしたが、2017年に実験的なアート作品に転じ、翌年には、「焼く」という倉崎の作品を象徴する手法を披露しました。まず、絵の人物の目を焼く「Blindness」シリーズにおいて、その空間と焼け跡を利用し、死を見ようとしない現代人の「盲目」を不安にさせるほど具象化しました。つづく「Mortality」シリーズでは、火で蝋の額縁を溶かすことで、時の流れをさらに形にしました。倉崎は、時の流れがより蒼白にさせる骸骨、艶やかで美しい蝶、熟した果実、繊細な花を、熱の流れが一方向の不可逆的であることで、時は命を生み出すと同時に、それは無に帰すものでもあるということを鑑賞者に思い起こさせます。
死をテーマにした蝋の額縁は一つの隠喩です。固い額縁を溶かして流体とし、現実の模糊とした不確かな作品を作り出すことで、命が刻々と変化するさまを象徴します。従うしかない必然的なもの、それは時の秩序です。
亡くなった親戚の名前の一字をとった名前を持ち、10代で何度も自殺を目撃した倉崎は、ドイツの哲学者マルティン・ハイデガーが言うように、人間とは「死に向かう存在」(Being-towards-death)であり、避けられない終わりを明確に認識することによってのみ、人は命を完全に理解できるのだという深い理解を持つに至ったのです。しかし、幼い頃から聡明であった倉崎は、「現代社会では、生と死は人々の日常生活において遠い存在となり、死を語ることはタブー視されている」とも見ています。「死から遠ざかっている人に対して死を描いても意味はありません。死は私たちから遠くにあるという、今の私たちの立場を意識することが必要だと思うのです」と語ります。
倉崎稜希は、自分が「最も遠いところにいる部内者」だということをはっきりと意識しており、死を受け入れる以外に道はないのだから、死の本質を探りたいわけではないと言います。倉崎は、今この瞬間の死を取り巻く「生」に興味をもっており、生命の必然的な終焉を通して、さらに、物質的な流動の隠喩によって、創造物の存在について問いかけます。芸術は本当に不滅なのでしょうか。作品も死ぬことがあるのでしょうか。倉崎は、「作品の死は、コンセプトの死であり、物体の死ではない」と再考します。
時の本質は最も神秘的な未解の謎なのかもしれません。生について、死について、存在について、倉崎は、これらの重要な物を「痕跡之庭(The Garden of Traces)」に集め、私たちを時の核心に引き戻し、そこから、私たちそれぞれの生に対する認識を開始させるのです。
About Ryoki KURASAKI

Ryoki KURASAKI was born in 1995 in Fukuoka, Japan. He concerns himself with the symbol of fire as the beginning and end of life and the ambiguity of its two sides. To put this interest into practice, he combines fire with portraits and still lifes in oil paintings. Through burning the eyes of the figures in his paintings, he expresses the blind sense of distance between life and death in today’s society, and attempts to approach the “values of the present” surrounding death. In recent years, he has continued his core creative concept by developing a series of three-dimensional works made of melted wax.
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