山本桂輔: 季節の暗号

山本桂輔: 季節の暗号
Keisuke YAMAMOTO Solo Show: Signs of seasons
2021.11.19th — 12.19th

日本では「万物に精霊が宿る」という美学の精神が尊ばれるが、この考え方を受け継ぐ山本桂輔(1979年生)が、Hiro Hiro Art Spaceにおいて、絵画と彫刻という手法を用いた個展「季節の暗号」を開催する。山本は自らの内面を見つめ、その土地の深さを探索する時間を通し、神霊のすみか、自然と文化が絡み合う想像の空間を創り上げた。細部へのこだわりから全体を描き出し、正確には伝えられないメッセージの集合体を充実させることで、万物がつながり、もつれ合い、影響を与え合うという世界観を描き出す。

山本は東京芸術大学大学院美術研究科彫刻専攻を修了。ミレニアム後に発表した一連の彫刻作品では、花やキノコ、女性など、色彩豊かなフォルムを生き生きとした有機生命体へと融合させた。2012年以降の作品は、土地の色彩を帯びるようになり、郷土玩具、民芸品から始まり、「人類創造の歴史と衝動」をより意識するようになっているが、それは決して美術史の主流とは言えない線的な観点である。山本が関心を持っているのは、ぎりぎりのところにあり、点在した、庶民の暮らしに根差した創造である。

地底の雲(眠る私) / oil on wood / 2016-2017 / h.276 x w.80 x d.75 cm

山本は木を材料にして制作を行い、日本の「依り代」に基づく美意識を練り上げ、さまざまな木材から、霊的なものを呼び入れる器のようなものを彫り出すことを企図して、言葉で表し難い感覚やイマジネーションを擬人化し、風土や民族性を帯びた集合的な潜在意識の探究を試みている。

かつて山本は自らの彫刻について謙遜しながらこう語った。自然に意識を向けるため、そして暮らしのために制作したものだが、こうしたモノのイメージは永久不変では決してなく、流動的であり、すべての自由のイメージを包含していると。つまり、「抽象的な感覚の集合」というこの彫刻に山本が切り取ったものは、モノの神が山本の心を打ち響いた「今、この瞬間」だということである。これはちょうど、フランスの哲学者、ガストン・バシュラールが考える、時間は決して線的なものではなく、点が集まったものであり、一人ひとりの体内に流れるそれぞれの「今」であるが、この「今」はまた、過去と未来をも含んでいるというものであり、これが体現するものは、まさしくモノの霊は細部の「微」に宿るとする日本文化の思想そのものである。

新型コロナウイルスのパンデミックに見舞われた2年の間、山本がより多くの時間をキャンバスと向き合うために費やしたということに注目しておきたい。

甘い培養 / oil on canvas / 2021 / 80.5 x 100.5 cm

個展では、2種類の素材を混ぜ合わせることで生み出された表現を見ることができる。山本は、絵画と彫刻はメビウスの輪と同じで、相補的で、対称的で、つながっていると考えている。絵画は「平面的な彫刻」であり、創作者は、紙の四辺の枠組みのなかで、ゼロからイメージや言語が生み出され、浮かび上がってくるのを辛抱強く待たなければならない。絵画が無から有に到達し自分自身と向き合う深層の考察であるのに対し、彫刻は「立体的なキャンバス」であり、その魅力は虚構のイメージを必要とせず、すでにある自然の素材を通して観る者の日常に入り込むことができる。それは、モノは神霊の依り代であるから、おのずからさまざまな視点を受容することができると考える。

山本の言葉を借りれば、それは「今なお大地に埋もれている庶民の『創造力』や『想像力』」であり、信仰や習俗、文化に影響された、人の血液の中にある神話や詩歌であり、観る者に、かつて知っていたかのような共感を与える。

大地の下には無限の時間が深く存在している。そこには人々の集合としての意識が宿っており、始まりや終わりという時間性もなく、ただ一連のトポスがあるだけだと山本は考えている。時間は過去にも未来にもつながり、あるいは過去と未来のすべてがこの一期一会に共存している。山本は「土や大地に感じる抗いがたい引力は、大地に対する信仰や畏敬の念である」と言う。自然とは遠く離れたところにある荒野ではなく、人類と切り離すことのできない絡み合った集合体である。私たちはこの自然に深く入り込んでいる。地底の混沌とした暗黒の中に、自由に漂う雲を見るために、想像し、じっと耳を傾け、身の回りにある暗号を感じ取らねばならない、と山本は語る。

山本桂輔


山本桂輔は1979年、東京生まれ。2001年に東京造形大学彫刻科を卒業後、同大学研究生として2003年まで在籍。2018年東京芸術大学大学院美術研究科彫刻専攻修了。主なグループ展に、「VOCA 展 2008」(2008 年、上野の森美術館、東京 )、松井みどりキュレーションによる「ウィンター・ガーデン:日本現代美術におけるマイクロポップ的想像力の展開」(2009 年、原美術館、以降世界巡回)、「Twist and Shout: Contemporary Art from Japan」(2009年、バンコク芸術文化センター、バンコク)、「ノスタルジー&ファンタジー 現代美術の想像力とその源泉」(2014年国立国際美術館、大阪)などがあります。作品は国立国際美術館などに収蔵されています。

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13 Dec 2021
hirohiroartspace